石岡ショウエイBlog『猫まみれ涙娘。』

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石岡ショウエイ漫画Blog:猫まみれ涙娘。

作家の端くれが、漫画やイラストで、エンタメ寄りの記事を書いております。

猫屋敷の夜はパラダイス/猫の漫画ブログ

◆『 ぼくと透明なネコ』5

 

ぼくと透明なネコ.5

 

「こんなに、うれしいことはない・・・」(by アムロ・レイ)

 

 

猫を飼えない男の猫語り

短編『猫屋敷の夜』 

 漫画の週刊連載をしていたころ、仕事場のすぐ近くに、いわゆる「猫屋敷」があった。

 立派とはいえない小さな造りの家に、たくさんの猫が出入りしていた。

 

 総勢20匹くらいだろうか、大人もいれば、子猫もいる。大半が白を基調とした色で、太っているのは一匹だけ。やつがおそらく、ボスだ。

 その家は、管理が行き届いていないのか、ちょっとした異臭も放っていた。周囲には近所迷惑扱いをされていたが、私は内心、うらやましさを感じていた。

 パラダイスやんけ・・・・・・。

 

 

 当時の私は、精神的にかなり追いつめられていた。

 遅筆であるため、スケジュールに隙はない。

 その週の原稿が終われば即、翌週の原稿をスタートさせることが必須だった。睡眠時間をどれだけ削ることができるかという、チキンレースでもしているかのような状態。

 

 おまけに、読者の反応が芳しくなかった。

 ここまで苦しい思いをして描く必要があるのか? といった現実逃避の気持ちもわいてくる。

 雑誌での連載というものは、おなじ誌面に載っている他の作品との、椅子取りゲームだ。人気がなければ、すぐに席を奪われてしまう。

 

 あのハードな日々を長く生き抜いている作家さんたちを、本当に尊敬する。そこにあるのは、誰よりも面白い漫画を描きたい、という情熱にほかならない。

 他人の作品を読んで面白いと感じたときに、そんな自分を叱咤するような人間でなければいけない。悔しさを感じなければいけない。

 

 私には、まだまだ情熱が足りなかったのだろうし、「嫉妬」という感情も欠けていた。

 子供のころから、勝負事があると、勝てそうなときでもわざと負けることが多々ある人間だった。

 負けても悔しくならないし、悔しがっている相手を見ることのほうが、しんどかった。

 

 

 話がそれてしまったが、夏の終わりごろには、猫屋敷の住人のうち二、三匹は、私がふれることを許すようになっていた。

 食事の買い出しに行った帰りに、その数匹をなでるのが、当時の私にとって唯一の楽しみだった。癒しだった。

 

 ある夜、買い出しに向かったスタッフに、頼み忘れたものがあることに気づき、私も追うようにコンビニに行った。

 少しでも早く仕事に戻りたい私は、会計をスタッフに任せて足早にマンションへと歩く。

 

 猫屋敷の前に、ほぼすべての猫がでていた。夏の夜はそんな感じだ。

 私が寄ると、おさわりOKのもの以外は散っていく。私は残った二匹を平等になでる。

 

 ・・・・・・ああ、幸せだ。

 このほんのわずかな時間のおかげで、私はなんとか気力を保てている。ありがとうございます、お猫様。

 

 とはいえ、つねに時間に追われている身だ。私は意を決して立ちあがり、マンションへと向かう。

 

 お猫様たちは、少しくらいさみしさを感じて、私の後ろ姿を見つめていたりするのだろうか。ほのかな期待を抱きながら、振り返ってみた。

 すると、追いついてきたスタッフが、お猫様に囲まれていた。

 おさわりOKのだけではない、すべてのお猫様にだ。

 それはまるで、スターに群がるファンのごとき光景であった。

 

 な、なんで!? なにそのパラダイス!

 私の中に、ないはずだと思っていた感情が猛烈にわきあがってきた。

 

 嫉妬。

 

 なんだよお前ら、その態度の違いは! もうなでてやんねえからな!

 スタッフも、自分で描こうと思ってた大変な背景、あんたにまわすぞ!

 つーかお前ら、なつきすぎだ! なんだその甘えた仕草、見たことないぞ!

 

 どういうことだ、その人からマツタケの匂いでもすんのか? マツタケじゃない、かつお節だ。いや違うわ、なんだっけ、あ、マタタビだ。

 えーい、気に喰わん。もうお前らとは絶交だ!

 

 

 ・・・・・・ウソです。

 ごめんなさい。あなたがたに嫌われたら、私はわずかな気力も失い、もはや締め切りを守れなくなるでしょう。

 どうか下僕扱いでかまいませんので、今後もかまってやってくださいませ。

 あとスタッフさん、お猫様に好かれる術を、教えてください。

 

 

 ――しかしその後も、お猫様たちが、私のまわりにあれほどの群がりを見せることはなかった。

 人望、といったものなのかもしれない。いや「猫望」というべきか。

 嫉妬について学んだ夏の夜の話である。(おわり)

 

 

今日のおさわりOK猫

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今日のアザラシ猫、もしくはエビフライ

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(Yさん家の子)

 

 

今日の団子猫

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 (Mさん家の子)

 

 

今日のネコリョーシカ

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今日の猫グッズ

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